絵を描くだけが画家じゃない|その向こう側にある世界をも伝える作品づくり

「私にその仕事が本当にできるのだろうか」Mさんがオーダーを依頼した時は、夢と現実が重なっていませんでした。Mさんは、人に教える仕事につきたいと思っていました。でも、会社員の経験しかありません。「あんな先生になりたいというモデルはいるのです。でも、とても自分には遠くて」とため息をつきました。「でも、本当にやりたい仕事につきたい想いだけは、あるのです」と、真っ直ぐな瞳で打ち明けてくれました。
 
こんな時、昔を思い出します。私も、「いつか画家専業で生きたい。でも、そんな時が来るとは思えない」という時期がありました。個展を毎年開いていたものの、実際には、会社員になって、先輩や取引先に可愛がられ「楽しく働きながら定年まで描いていける」安心と安定を手に入れるために働いていました。
 
しかし、<ああ、定年までこの会社でいることができる>、という未来が見えた時、「これが私の人生なのだろうか?」自分の人生を生きてないと気がつきます。そして、悩んだ末に、舵を切って、オーダー画家としての私があります。
 
だから、絵を描くだけが画家じゃない、と考えています。その向こう側にある世界を伝えていきたい。あるべき場所にいる自分、ストンと違和感なく毎日が充実している自分。その体感を絵に込めたい。そして、そこへの行き方がわからないなら、言葉でも灯火を掲げたい。
 
Mさんは、その時起業の知識がなかったので、現実にできることを洗い出しました。次に、夢を実現するための優先順位をつけました。そして、実際にどう行動スケジュールに落とし込むのか。スケジュールを引くセッションもしました。
 
これを読んで、「オーダー絵画で、夢を実現するための優先順位をつけたり、具体的な実行スケジュールを引いたりするの?」と、驚くかもしれません。実際、Mさんも、「ここまでしてくれるの???もはや、オーダー絵画の領域を超えている!」と、言いましたし、私も、超えていると思います。   
 
しかし、私は、絵を描くとともに、その向こう側にある世界も伝えたいのです。
 
それには、深い理由があります。オーダーを描き始めてから、「絵のおかげで、居心地良い場所が生まれたし、見るたびに、落ち着いてやる気になる」ことで、成功しました、と教えてくれる絵のオーナーたちが現れました。一方、同じように、上質な空間で、自己肯定が高まっても、自己実現しない人たちもいました。
 
この違いはいったいなんなのだろう。
 
この疑問から、学会に所属するきっかけになりました。日本生理学会、日本情動学会、事業承継学会。美術大学出身の私にとって、どれも門外生です。でも、より貢献できるオーダー絵画を描くために、理由が知りたかった。このオーダースタイルを、極めていきたい、と思うからです。

そうやって、慣れない分野のなかで、手を差し伸べてくれる教授や先生たちとのディスカッションを通じて検証をするうちに、成功する依頼者は、論理思考やマネジメント力、イシュー思考に優れていることに気がつきます。そこで、必要な人には左脳的な要素をくみいれるように、セッションを進化させたのです。
 
そうして、セッションを繰り返すうちに、Mさんの欲しいイメージがはっきりしてきました。あるとき、キラキラした瞳で、こういったのです。
 
「最初は、何を描いてほしいかわかりませんでした。でも、夢に向けて、行動してみて、実際に夢が現実に近づいていると感じるようになって、浮かんできたのです。富士山がほしいって」
 
しかも、Mさんの頭の中に浮かんできたのは黄色い富士山!独創的です。こんな時、私も一緒にドキドキワクワクします。
 
そして、富士山の構想画を描くと、今度は、「富士山に虹がかかるのが浮かんできました!」と、気がつき、虹を入れた絵を新しく描いたら、さらに「虹の上に月がかかっているのが浮かびました!」
 
Mさんに、心の化学変化が次々と起こって、Mさんだけの世界観が浮かび上がってきました。
 
この頃、週末起業というスモールステップを、Mさんは自信を持って踏み出します。自分で見つけた起業塾に通ったり、教室候補になりそうな場所の大家さんに声をかけたり、自分でどんどん行動するようになっていました。そしてある日、週末起業をサポートする方から、「Mさんならどうかなと思って」と紹介された場所を見て、一瞬で、「この場所でやる!」と自分の感覚と考えで決めたそうです。そして、「それは思い描いた以上の場所でした」と嬉しそうに教えてくれました。
 
そして、この春。ついに、「夢だった仕事が、順調なスタートをきりました!」と、Mさんから連絡がきました。今の時勢で、この言葉は、本当にほんとうに嬉しい。そして今、Mさんは、さらにその先の夢に向かって、進んでいます。
 
 

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