「門間さんに肖像をお願いしますね」とKさんはにっこりしました。「色んな絵を見てきたし、購入もしてきました。肖像は見たことがないけれど、依頼したいです。きっといい絵を描いてくれるから。イメージは門間さんに委ねます」と、依頼されました。
見たことがないものを見たい。知らない世界に足を踏み入れたい。好奇心に動かされているようでした。教育事業で起業。自営業から経営者へと一歩一歩変化してきたKさんだから、好奇心は普通の人よりも強かったかもしれません。話しながらスナップ写真をたくさん撮った時、知的な瞳がワクワクしていました。
気持ちがひしひしと伝わってきて、肖像を超えたものを描くことを考えました。【人の形】ではなく、肩書きや、身分を離れた、人としての存在を描きだそうと構想を練りました。美大の卒業制作から【存在とエネルギー】をテーマにしてきたので、スピリチュアル的な構想は自然な流れでした。
誰もが心の奥に持つ澄んだ純粋な気持ち。尊いもの。それを、どのように表現できるのか。あれこれスケッチする中で、「世の闇を照らすマドンナのように、同時に少女のかわいらしさを描こう」と、インスピレーションが浮かびました。
すると、次に、色彩心理から、色が浮かんできました。色彩心理を使うと、浮かんだテーマを色に置き換えることができるのです。理知的な大人を濃紺で、マドンナのような優美をローズ系の色に置き換えます。白は、少女のような純潔を表すことができます。そうやって考えている時、白い点がイメージに浮かんできました。こんな時、最初は意味が分からなくても、絵に描き出してみる。目で見てじっと見ていると、その意味がわかるようになる。20年以上描いてきて感じることなので、この時も意味が分からないまま本画に描き加えました。
描き出してじっくりと眺めていると、それは、Kさんの塾に通う生徒さん達が次々と浮かんできたかのように感じました。可能性を秘めた子供の魂のようで、ちょっと不思議な感覚です。でも、いつも子供たちの成長を心から願っているKさんの肖像にはぴったりでした。
そうして、本画はスルスルと浮かぶイメージに導かれて完成しました。
絵を郵送で届けると、翌日に長文のメールが届きました。
「肖像画、ありがとうございました。とにかくすごい絵です。見る時間によっても、角度によっても、いろいろ表情が変わります。昨夜、初めて絵を見た時は、「何、これ?」と絶句して、ゾクゾク全身鳥肌が立ちました。絵に現れている精神性へ言い知れない畏敬の念を感じていました。
昼間のあかりで見ると、まさに菩薩様、観音様のような風情で見え、限りない優しさと救済の意思、慈悲が表現されているようで涙ぐんでしまいました(自分の肖像画のはずなのですが・・・)
肖像画であって、肖像画ではない。描かれているのは、内在神、ハイアーセルフというのでしょうか。(思いついたまま正確にいおうとすると、スピチュアルな言葉になってしまいます。)この絵を眺めるということは、古浸透の自神拝に近いのかもしれないと考えたりしました。自分の精神のルーツが確認できる絵です。
門間さんの描く肖像画をお勧めしたいのは、精神的に何かを探求して、行動を起こしている人ですね。肖像画をみることで、きっとすぐ原点に戻れ、勇気をもらえると思います。」
文面から、絵を見てゾクゾクしたKさんの気持ちが伝わってきました。これは、今から10年ほど前の物語です。私がオーダー画家として駆け出しの頃でした。
その後、門間の描く【人】は、原点に立ち戻りたい、勇気を得たい人に向けて、描かれ続けています。