オーダー絵画なのに、最初の構想からまったく外れた絵が生まれたことがありました。あまりにかけ離れていたので、「とっても不思議な龍が出てきました」と電話をかけました。すると「実は、会社が危機を迎えていたのです」興奮した声が返ってきました。
それは、先代から会社を引き継いだOさんのオーダーでした。社長は、道がないところにレールを引くのが、1番の仕事です。誰も指図する人がいないから、自分で考えて自分で決めます。自分で考えて自分で決めるということは、成功も失敗も自分で背負うということです。「道がないといっても、似た会社とか、モデルがある。だから、それを真似すればいいだろう」などと思っていたら、一時はうまくいってもどこかでつまずきます。なぜならば、物事の仕組みは、背景や環境を土台にしてできあがっているからです。誰一人として同じ人生を歩んでいる人がいないように、まったく同じ経営資源を持っている会社もありません。だから、たとえモデルがあっても、自分との違いを精査してから、自分に応用する力が必要です。そのためには自分で自分にしっかりと向き合う必要があります。
Oさんが依頼したのは、自分に向き合うことを習慣にするためのオーダーでした。寝室に龍の絵を飾って、寝る時に「今日の従業員とのやりとりはどうだったのだろう」とか振り返ったり、朝起きた時に「今日もがんばろう」と気持ちを整えたりするのです。
だから、最初のセッションで、柔らかいタッチの優しい龍に決まりました。そして、最初の構想で、ふんわりとした龍が現れました。その画像をメールで送ると「優しい感じですね。でも雄大で、楽しみです!」Oさんからかえってきました。
構想では、1ヶ月ほどあいだを置いてから、再び筆をとります。アイデアを寝かせておくと余分なものが削ぎ落とされて、より良いものが生まれるように、絵も時間をおくと構想が進むのです。しかし、その次に筆を撮った時は違いました。
優しい龍のイメージではなく、奇妙は龍が思い浮かんだのです。目が飛び出そうな異形の龍です。優しい顔とはかけ離れています。しかし、そのイメージを絵にしました。画家は、道なき道を体現するもの、というのが私の信条です。自分自身が自分の感覚を信じ、絵に表す。自分の感覚を信じて、行動する。自分に向き合って、絵や絵の背景を冷静に分析する。そうするからこそ、道なき道を拓きたい人の絵が描ける、と考えているのです。
だから、メールで画像を送り、補足するために電話をかけました。すると「実は、会社が危機を迎えていたのです」Oさんの興奮した声が返ってきました。会社は一山越えた後、まだまだ余談を許さないところでした。異形の龍は、特別なエネルギーを送るために生まれたかのようでした。
その後、Oさんの会社は、「厳しい状況が続いているけれど、色々な助けというか、タイミングがピタッピタッと合っていることに驚いています」と聞きました。
そして、ある日、下絵のために、筆を取ったとき。凛々しい龍が現れました。画像をメールで送ると、「ありがとうございます!確かに凛々しい!雄雄しい!でも優しいですね。なんだか、良い先ぶれのようです」Oさんの喜びが伝わってきました。
さらに、本画の龍が完成していく月日の中で、「門間さん、ありがとうございます。ステキステキ!私の龍ですね。今は、3ヶ月連続目標金額をクリアしそうなところです。今月は経営の天王山、今後の指針を見るためのテストスパンでした」と、会社が上向いていく明るさが、伝わってきました。
そして、完成。
「おー!凛々しいけど、美人さんですね!ありがとうございます。途中の龍の構想では、どうなるのかとドキドキしましたが、完成してみたら、賢くてカッコイイ。凛くん、と名前をつけて、呼びかけるようにします」輝く笑顔のOさんには、危機を乗り越えた、たくましさが漂っていました。