『心の海』|自分だけの海を手に入れることで得られる喜び

/ カテゴリー: リビングに飾る絵, 風景
題名:心の海

海が描かれたオーダー絵画の画像を見て、多くの人が「まるで写真のようですね!」と言います。中には、「これ写真ですよね?」確かめるように聞いてくる人もいます。

でも、もしも同じような場面の海の写真と並べたら‥‥、同じような海岸線に立って海を眺めたら、絵と現実がどれほど違うか気がついて驚くことでしょう!

現実ではあり得ない空気や世界を、まるで本当にあるかのように感じることができるのも、絵の楽しみです。私が取り組むオーダー絵画では、【自分の感覚にぴったりあったものを現実のように表現された絵を手に入れる】のがクライアントの醍醐味です。

そんなふうに作った絵は、作り物に過ぎないじゃないか?という意見もありますが、『芸術の哲学』で渡邊二郎は「芸術とは私たちに自己認識を授け、生きる勇気と喜びを贈り届けるもの」と言っています。私自身、オーダー絵画でのクライアントとのやりとりを通じて<虚構だからこそ見える真実>があるのを何百回も感じてきました。

海が描かれた1メートル以上のオーダー絵画が完成して、Mさんはしみじみと言いました。

「私はボートに乗った時の海の青さが心に残っていたのですね」

それは、【心の海】を手に入れた瞬間でした。

社長として忙しい日々。でも、子供たちとの思い出も作りたい。自分もリフレッシュして仕事のストレスを溜めないようにしたい。仕事だけでない人生の楽しみを味わいたい。そんなMさんを強く引きつけたのが、石垣島の海。何度も何度も通っているそうです。

「でも、仕事の状況では思うようにスケジュールを取れない時があります。だから、家族の思い出が詰まった大好きな石垣の海をリビングに持ってきたい。そうすれば、いつでも海に想いを馳せて元気になれます。だから、大きな海の絵がほしい」が願いでした。

オーダーの依頼を受けて、絵画にするためのセッションをしました。構想画や下絵を何枚も描いて一緒に考えました。そうしているうちに、島には、美しい緑や、点在する島々があるけど絵に入れない。「白い砂浜が広がった青い海だけの絵がいい」のがわかりました。

今の時代、石垣島の画像はネットに溢れています。Mさんが生き生きと語る海の場所は、どこ?と感じて「画像で似たものはありますか?」聞いてみました。すると‥‥「石垣島の画像はたくさんあるけど、どれもピンとこない」というのです。

溢れ出るように海を語れるのに、モデルになる写真はどこにもない。それは、【心の中にしか本当にほしいイメージがない】ことを意味していました。でも、言葉にはうまく表せないこともわかりました。

では、私が動いてみよう!Mさんの心を追体験するために、石垣島に飛んで理由がわかりました。

石垣島で一番綺麗な青と言われる海の場所は、砂浜よりも岩場が広がっていました。目の前に島も点在していました。白い砂浜がある場所は、理想とする青さがありませんでした。Mさんの心に浮かんだ空には大きな雲がダイナミックに広がっているのですが、雲があると海の青さは鈍ります。

レンタカーを飛ばして、石垣島の海岸線を走り抜ける一泊二日の取材。

Mさんの石垣のイメージは、海のあちこちで断片的に見つけることができました。でも、現実のどこにも見出すことはできませんでした。

アトリエに戻って、絵に向かうとだんだんと【心の海】が現れてきましたが、まだ何かが足りない気がしました。

それが得られたのが、日本生理学会の年次大会で立ち寄った四国の島でした。会場は高松。フェリー乗り場がすぐ近くの会場でした。高松に降り立った時から、なんとか島々に行く時間をつくりたいと強く思いました。3日間の大会期間のある日、聞きたかった講義を終えて、
夕方遅くのフェリーに乗り込みました。美しい砂浜についたのは日が暮れる直前。

それでも、島に降り立った時、何か得られると感じました。薄暗い中で穏やかな波が打ち寄せています。空と海の澄んだ美しさに、カップルの観光客も無言で手を繋いで歩いています。

ゆっくりと夕焼けから夕闇にと変化していく中で、海と砂浜が溶け合うような感覚を覚えました。その時、「これだ!Mさんの海の砂浜は、溶け合うように表現すればいいのだ!」閃いたのです。

学会後、アトリエに戻って右側手前の海岸線を、閃いた時の感覚で描き込んだらぴたりと収まりました!

題名:心の海 右側の海岸線は、抽象的にぼかして描かれている。

私が閃いたのは、真っ暗になる前の海でのことですが、Mさんの海は明るい日差しがあふれる世界です。【感覚】を捉えるときには、暗い明るいという現象でないことを改めて感じた瞬間でした。

絵の、右側の手前の海岸線をふんわりした白で表現しました。遠近法で砂浜が遠のいていくように描くと、左側の微細な青の美しさが死んでしまう。それをどう解決すればいいかを数ヶ月考えていましたが、これが答えでした。

完成した絵を見てMさんは、「これが私の【心の海】ですね」と嬉しそうに言いました。一見写真のように見えるその絵が、全く写真ではあり得ない世界を映し出している。それをしみじみと噛み締めていました。

今でも、石垣島は家族で遊びに行く大切な場所と聞きます。

自宅では【心の海】の石垣がある。
石垣に行って家族との思い出を重ねて、自宅に戻って【心の海】への想いを深める。時に、絵を見ながらワインを飲んで楽しむ。

そんな毎日を楽しんでいるそうです。

題名:心の海

同じオーダーの記事「石垣島での想いが映し出された海の絵をリビングに飾る」

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