絵で、きれいな色や雰囲気を楽しむ。
インテリアとして部屋にマッチするものを求める。
というのが、絵を購入するときに一般的です。
でも、せっかく【絵】を買うならば、もう一歩踏み込んだ楽しみを知っていると、楽しさが倍増‥‥、いや、人生が豊かになります。
例えば、絵で時間の移り変わりを楽しむことができます。
「え?絵って一枚の静止画でしょ」と思うかもしれません。はい、確かに絵は動きません。でも!まさに、そこがポイントなのです。動かないからこそ【想像する力】を養ってくれるのです。AIなど、どんどん機械化自動化される時代だからこそ、【想像する力】の重要性が増してきています。しかし、情報に溢れている中で、想像する力を養う機会はどんどん減ってきています。
でも、たった一枚の絵を一目みるだけで、想像力を養うことができるのです。
例えば、日本の名画でいうと、福田平八郎の描いた『雨』(山種美術館所蔵)。
一見、大胆に屋根瓦が描かれた絵なのですが、よーく見ると、雨がポツポツと落ちている色が表現されています。瓦は、濡れると色が変わります。濡れ具合で刻々と色が変化するのです。
瓦にポツポツと雨が降り始めて、だんだんと微妙な瓦の色になった‥‥、とイメージしてみてください。時間が感じられると思います。この時間経過を表現しているから、絵の題名が『雨』なんです。
こういった時間経過の表現を大胆に使ったのが、『四重奏』というオーダー絵画です。四代にわたる女性たちの時間軸を表した作品なので、『雨』に比べると長大な時間です。
Kさんは、両国にある皮小物を扱う会社の六代目。明治から続く老舗です。優しい笑顔に、ハキハキとした口調。「下町の小さな会社ですが、地域のみなさまに信頼していただき、江戸時代から大正時代にかけての、貴重なコレクションを展示・公開する博物館も運営させていただいています。伝統を大切に今後も会社を運営していきたい、と思っています」穏やかな語り口に、熱がこもっています。
「社長を継いで数年経ち『上に立つにはポジティブな気持ちが大切』と改めて思うこの頃です。
だから、365日自分を応援してくれる絵をお願いします。絵は、抽象的なものが欲しいです。」
その後、セッションしていく中で、会社の伝統が培われてきた背景に、Kさんの母、祖母、曽祖母の存在が大きかったのがわかってきました。
「絵を見るたびに、お母様たちが応援してくれているイメージを浮かべることができれば、ポジティブな気持ちになれますか?」質問すると、Kさんは、「それは素敵です!」目を輝かせました。次に、我に帰ったように「でも、抽象的な絵で‥‥どうやって母たちをイメージする作品になるのでしょうか?」と質問しました。
そこは、ビジョンクリエイターですので、すでに答えを持っています。
「色の塗り重ねで、表現するのです」
「色の塗り重ね?」Kさんは驚きました。
「油絵の技法を使って絵を描くのです。油絵では、色を塗り重ねて描く方法があります。これを使うのです。
先ほど、Kさんの好きな色など、一人ひとりのイメージカラーをお聞きしたのは、このアイデアを思い浮かべていたからです。答えを聞いて、『これはKさんが欲しい抽象画と4人が入ったイメージを両立できる』とわかりました。
最初に曽祖母さまのオレンジ。
次に、祖母さまの紫。
3番目に、お母さま濃いピンク。
最後に、Kさんの白。
‥‥、という順番で、色を重ねていくのです。Kさんの白色は、オレンジ、紫、ピンクの上にのることになります。つまり、色の重ねを通じて、下支えしてもらっていることをイメージすることができるのです。
これならば、抽象的なイメージでも人を表すことができます。
どうですか?」
「想像したらワクワクしてきました!ぜひお願いします」
さて、セッションが終わってアトリエに戻ると、画家の出番です。
一番下のオレンジで絵全体を描くと、一旦乾かします。時間をかけて、一色一色塗り重ねていくのです。
オレンジの次は、紫です。そうして重なる時、オレンジが隠れる部分と、微妙に重なる部分。残る部分‥‥。微妙な変化が生まれてきます。その上に、また、濃いピンク、そして、白が重なっていきます。
人と人がつながっていく歴史も、同じなのではないか、と感じながら描き進めていきました。
伝統としてそのまま残る部分。残りながらも改良される部分。時代に合わせて新しくなる部分‥‥。
そうして、オーダー絵画が完成しました。
完成した絵を見て、
「とても優しくてかわいくて、そして凛としています。そして、心にすっと入ってきました。どうもありがとうございます」
Kさんは愛おしそうに言いました。