対画 メディテーション絵画:題名「変容」
「重要な選択を迫られると、多くの人はどうするか決めるために、紙を取りだして選択肢のプラス面とマイナス面を書きだす。
しかし、複数の実験から、この方法は意思決定には必ずしも最適な方法ではないと判明している。あまりにも意識しすぎると、自分が実際には好きではないものを選択するよう、自分を説得する可能性があるからだ。
むしろ、決定にかかわる情報をできるだけ集めた上で、その情報を無意識の領域に任せるのが一番いい。選択が自然と湧き上がってくる。」(『脳科学で解く心の病』(カンデル著)
カンデルは、90歳をすぎても脳科学の第一線を歩む驚異の科学者。ノーベル生理学・医学賞を受賞したことでも知られています。
彼の研究の背後に、最適なものを浮かび上がらせる無意識の使い方があったのでしょう。
画家も無意識の領域を使います。絵の専門領域で無意識の力を借りるのです。
言葉を集めて選択するのではなく、絵の要素をあれこれ感じとって最適なものを選択するのです。
とことん描いてえがいて(決定に関わる情報をできるだけ集めて)一旦描くことをやめる。別のことをしたり、寝たり、無意識の領域に任せる。そうすると、また絵に戻った時に、以前は浮かばなかった最適なものが浮かんでいたり、最適なものに向かう新しいヒントが得られていたりするのです。画家だけでなく、さまざまな芸術家たちに、この無意識の力を使っている体験が語られています。
私自身を例にすれば、代表的な形は2通りあって、一つのテーマを、短時間にいろんな絵に何枚も何十枚もたくさん描いた後に無意識に任せる方法と、一枚の絵に向かって時間を置いて繰り返し描き加えていく方法です。
これを読んでいるあなたも、自分の領域で、一つのことを短時間にたくさんアウトプットする方法と、じっくりと何度も修正していく方法があると思います。それこそ、自分では自覚しないで、コーヒーブレイクを取ったり、雑談を挟んだり、別のことをしたり、無意識を使っている場面があるのではないかと思います。
時に、カンデルがいうように、「選択は自然と湧き上がってくる」ので、「これだ」と迷うことなく選ぶことができているのではと思います。
一方、うまくいかないときもあります。この時は、まだ、プラス面やマイナス面に意識が向きすぎている時です。
画家の言葉で言うと「うまく描けているかな」「だめかな」と思いながら描いている間がこれにあたります。無心に、次々に色や形を紙にのせるその感覚に集中する。
無心に次々と取り組んでこれ以上できない‥‥、というところまでやる(時間が許さなければ、時間内を無心で取り組むことに集中する‥‥)。
日本的に言うと、【無】の感覚に通ずる部分があります。【腹落ちするような体感】にも近い感じです。
ストンと体に腑に落ちる感覚は、自分の頭だけで出なく、身体全体で前進するよう喜びを感じさせてくれます。自分自身がより自分になるような、心地よい感覚です。
ちょっと(かなり?)飛躍になりますが、世界の中で自分がより自分で存在できる‥‥、そんな心持ちになるものです。
画家の場合は、絵を描いて試行錯誤して、言葉にならないモヤモヤと格闘する苦しみがありますが、言葉以前の根源に直接触れる喜びがあります。
私の場合には絵を介したこの無意識の力を、《自分を変える》ために使い続けてきました。美術大学に入って大学1年生の時に出会った一冊の本に書かれた、「すべての人には可能性がある」という言葉が、その出発点になりました。
オーダー絵画では、言葉以前の部分の無意識に触れさせていただく時に、無意識の力のこの使い方の積み重ねが役立つのですが、
それはまた別の物語です。
対画 メディテーション絵画:題名「変容」