《無限億の泉》|渦巻や螺旋を描く絵には、人としての根源的な感覚にアプローチをする力が宿っている

《無限億の泉》:取り出した 輝き 増す強さに

「渦巻模様は、太古から続く美の原点なのでは」と思うようになったのは、自分自身が作品で渦巻を描くようになってからです。

自分で自分に向かい合い、イメージを思い浮かべ、その感触を描くことを繰り返して15年以上経って、自然に生まれてきた作品群に、渦巻きや螺旋があります。これは、今でも継続しているテーマです。

自分の内面から湧き上がるイメージに螺旋や渦巻があることがわかって、一体なぜ心象として感じるのだろうか、という興味が湧いてきました。

さらに、過去の画家たちが取り組んだ渦巻の構図にも、興味が掻き立てられました。例えば、葛飾北斎も渦巻の構図で圧巻の作品を描いています。86歳の葛飾北斎が長野県小布施で描いた、祭り屋台の天井絵「濤図」。激しく襲いかかる波頭とぐるぐる渦巻く波に心奪われます。

しかも渦巻は、はるか昔から取り上げられるテーマでした。北斎から遡ること1万5000年前。縄文人が土器に施した装飾には、ぐるぐるの渦巻き模様がたくさんあります。

さらに、渦巻は、日本から遠く離れたヨーロッパでも、古来から文様として扱われていました。「Gyre」(渦巻き、螺旋)、螺旋模様は、数千年にわたるケルト人の歴史の中でも、死滅と再生の循環、永遠の変容のシンボルとして描かれ続けているのです。

ケルト人とは、西ヨーロッパの歴史世界を構成する民族の一つです。ギリシア語でケルトイKeltoi,ラテン語ではケルタエCeltaeまたはガリGalliと呼ばれました。広域にわたる分布のため,人種的特性は一定しないと言われています(出典 小学館デジタル大辞泉 )。

紀元前500~200年にかけてケルト人たちは鉄製武器と馬車(戦車)を用いてヨーロッパ全土に広がっていき、隆盛を誇りました。しかし、紀元前1世紀ごろになるとゲルマン人が台頭し、次第にケルト人は西へと押しやられ、ローマ帝国の拡大などによって、すっかりヨーロッパの中心から追いやられてしまいましたが、今でもヨーロッパの文化全体に影響が残っており、近年では古代ケルトの再評価が高まっています。

日本、ヨーロッパの古代から渦巻が美術表現として取り上げられている‥‥。人の心の根源に渦巻のイメージがあるのではないか‥‥、と思うようになりました。

そして、オーダー絵画に取り組むようになってから、心象風景として渦巻を思い浮かべる人は、たくさんいるのだと、改めて気が付きました。

セッションをして、クライアントの話に耳を傾けていく中で、

「何かが湧き上がる感じ」
「脱皮するイメージ」
「新しい次元にワープする」
「共にどこかに向かう」
「還っていくほっとする気持ちになる」

などさまざまな言葉と共にさまざまなバリエーションの渦巻き、螺旋のテーマが表れてくるのです。渦巻や螺旋を描く構図には、人としての根源的な感覚にアプローチをする力が宿っているように感じます。

今回の作品は、円の中に渦を巻く絵、 
オーダー絵画を描く前に取り組んでいた、
心の泉を描いた《無限億の泉》のシリーズから取り上げました。

《無限億の泉》:取り出した 輝き 増す強さに

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