「十一面観音龍」_12月にすべてを見通して来年へ備えを

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ミロのヴィーナスに比較される、美しい十一面観音。それは、奈良にあります。
聖林寺の十一面観音。
明治20年(1887)、アメリカの哲学者フェノロサによって秘仏だった観音様が、人々の前にその美しい姿を初めて現しました。フェノロサはその美しさにとても驚いて、ミロのヴィーナスと比較して讃えました。

この十一面観音に触発されて、生まれきた十一面観音龍です。

11月、神戸での日本情動学会の発表の後、オーダー絵画の絵のオーナーがいる奈良県桜井に足を伸ばしました。奈良といえば、東大寺や奈良公園など大建築が有名ですが、日本の古代300~800年ごろの重要なものが桜井に点在しています。作品を描いていくのに、日本の源流を振り返り、自分の在り方を深く見つめ直すのが目的でした。

博物館や美術館で、仏像や史跡も見ることができる時代です。

しかし、場の空気に触れる。本来の場でみる。

すると、歴史を肌で感じ、時空を超えた何かまで、掴むことができるものです。
ビジネスや経営で現場の大事さがよく語られるのと同じで、機会がある時にはできるだけその場に足を運ぶようにしています。

日本人で、仏教に触れることを大切にした経営者は、たくさんいますが、2022年に亡くなった稲盛和夫もその一人です。多大なる功績を残したことから「経営の神様」とも呼ばれた稲盛は、京セラの名誉会長だった1997年、臨済宗妙心寺派の円福寺で得度し、修行を行い、これが、自身の経営においてこだわり続けた「フィロソフィ(企業哲学)」の構築に大きな影響を与えたといいます。

私は画家なので、仏像や寺院、古墳などに触れるのが目的でした。車で2日間案内してくれたNさんは「奈良に25年以上住んできたけれど、門間さんのリクエストは横目で見ていて立ち寄ったことがない場所が多く、奈良の再発見となりました」と教えてくれました。古墳、遺跡、寺院など。中国から来た大陸文化をもとにした東大寺などの前の日本の世界。大陸から来た人々と、日本に住んでいた人々との交流や葛藤、入り混じる世界観。空気感‥‥。日本の源流を辿るには、この静かで穏やかな地が必要なんだと、しみじみ感じる2日間でした。

十一面観音のルーツは、インドですが、十一面の数の由来など明確な根拠に乏しく,インドにおけるヒンドゥー教の多面多臂(たひ)の変化身の影響によって7世紀ころに成立したと考えられるそうです。

名の通り、頭上に11の顔を持っています。
11面の内訳は、前3面は、菩薩面:慈悲の表情。左3面は、憤怒面:怒りの表情。右3面は、狗牙上出面:歯を見せてほほ笑む。後ろ1面は、大笑面:大爆笑している。頭上は、仏面。本面を合わせて11面、9や10面の場合もあります。
同時にすべての方向をみて、すべての方角を慈悲する仏です。

また、不空訳『十一面観自在菩薩心密言念誦儀軌経』に説かれる十一面観音の「十種勝利(10種の現世利益)」と「四種功徳(4種の来世での功徳)」では、

十種勝利
一、「離諸疾病」 病気にかからない
二、「一切如來攝受」 一切の如来に受け入れられる
三、「任運獲得金銀財寶諸穀麥等」 金銀財宝や食物などに不自由しない
四、「一切怨敵不能沮壞」 一切の怨敵から害を受けない
五、「國王王子在於王宮先言慰問」 国王や王子が王宮で慰労してくれる
六、「不被毒藥蠱毒。寒熱等病皆不著身」 毒薬や虫の毒に当たらず、悪寒や発熱等の病状がひどく出ない
七、「一切刀杖所不能害」 一切の凶器によって害を受けない
八、「水不能溺」 溺死しない
九、「火不能燒」 焼死しない
十、「不非命中夭」 不慮の事故で死なない

四種功德
一、「臨命終時得見如來」 臨終のとき、如来とまみえる
二、「不生於惡趣」 悪趣(地獄・餓鬼・畜生)に生まれない
三、「不非命終」 早死にしない
四、「從此世界得生極樂國土」 来世、極楽浄土に生まれる

と書かれています。(十種勝利と4種功徳については、真言宗 天照寺のHPから引用させていただきました)

さて‥‥、
奈良から自宅に戻って、オーダー絵画に向かっていると、ふと、十一面観音での龍が思い浮かんできました。

実は、アイデアスケッチは昨秋からありました。しかし、それ以上、筆が進まず、壁にずっとかけてありました。

しかし、聖林寺で見てきた十一面観音や、その他のいろんな積み重ねで、頭の中に明確にイメージが浮かんできました。

今なら、描けるのではないか?
そうだ、そう想う時は、描いた方がいいのだ。

そして、生まれてきたのが、十一面観音龍です。

12月を迎えて、来年の準備をする一ヶ月にするのにふさわしい作品だと思います。
良き師走を過ごせますよう、心よりお祈りして。

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