『心の海』|現実にはどこにもない自分だけの心の海のイメージを求めたMさん

/ カテゴリー: リビングに飾る絵, 癒しの絵, 風景
完成作品 題名:『心の海』

心で見たイメージを絵にする。すると、自分が無意識に大切だと思っているものも、生き生きと浮かび上がります。

しかし、それがなかなか難しい。実は、現実を元にして考える場合、心の中のイメージで、何が大事なのか?一つ一つ紐解かないと、ピタとくるイメージに辿り着けません。

実は、日本の美術は心のイメージを表現するのを得意としてきました。絵巻物、浮世絵、屏風絵‥‥、長い歴史の中で、たくさんの作品が残っています。例えば、愛知・徳川美術館ならびに東京・五島(ごとう)美術館に所蔵される、国宝の源氏物語絵巻。現実だったらある屋根や天井を取り除き、ときには室の仕切りも省略して、斜め上から俯瞰(ふかん)的に屋内を描く手法で、室内を広く生き生きと描き出すことに成功しています。

心のイメージを形にするには、取り除いたり、省略したりするだけでなく、順番や大きさもバラバラにすることがあります。

西洋美術で言えば、美術の教科書に出てくる【キュビズム】のような描き方です。

私は2019年の神戸での学会の後、【キュビズム】で教科書では教わってこなかった彫刻を偶然知って、強い衝撃を受けます。「ピカソが始めたと言われるキュビズムが、あまりにもアフリカのマコンデ彫刻に似ている」のを発見したのです。まるで「そのまま引き写したのでは?」という思えるほど似ていました。

マコンデ彫刻は、タンザニアのマコンデ高原に住んでいた東アフリカ・マコンデ族の想像力豊かな黒檀彫刻。

最初の父親がアフリカ黒檀(アフリカンブラックウッド)を彫って最初の母親を創ったという伝説を持つ彼らにとって、アフリカ黒檀の木は聖なる意味を持ち、今日まで数世紀の歳月を費やして独自の木彫りの技術を発展させてきたと言います。

キュビズムは、あらゆる対象を幾何学的図形に還元して描く、立体派とも呼ばれる美術運動のひとつで、ポール・セザンヌの「形態」に対する主張に影響を受けたジョルジュ・ブラックやパブロ・ピカソが始めたと言いますが、その基盤の一部に、聖なるイメージを大切にするアフリカの心が息づいているのです。

Mさんに石垣の海を題材にするオーダー絵画を依頼された時、実物の写真がたくさんある有名な海なので、最初、描くのはそんなに難しいことではないと考えていました。

しかし、描き進めるに従い、とても難しい依頼だと気がつくことになります。

まず、下絵を描いてMさんに見せたときに「石垣の海は絵のような波はない」と言われて解釈に困りました。資料でたくさんの写真を見ましたが、波があるものもあったからです。

『心の海』の下絵

ゆっくりと話を聞いていくうちに、「Mさんの心のイメージの海、毎日眺めたい海には、波が全くないんだ」と分かりました。

そして、時間をかけて絵の具を重ねて描いていく本画の制作では、波がない、石垣独特の遠浅の穏やかな海を描き出していきました。

ところが、今度は「私にとっての石垣の海は、手前ももっと青いです」と、絵を見てMさんが気がつきました。

どうしたらいいのだろう?と考えに考えて、

「海をキュビズムの彫刻のようにつぎはぎにつなぎ合わせよう。

しかし、日本の絵巻物のように、見ている人はごく自然に絵を楽しめるようにしよう」

と思いつきました。

そうやって出来上がった絵は、「まるで写真のよう」とよく言われます。

しかし、写真とは最もかけ離れたところから、この絵は生まれてきました。

心のイメージをとことん追いかけたMさんの心の海は、

見るひとの心に入り込んで、写真よりもリアルに迫ってくるのかもしれません。

あなたの目には、どう写るでしょうか?

完成作品 題名:『心の海』

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