航海|サロンの家具とコーディネートされた額装

「セッションルームに絵を飾るのが夢なので、額装をコーディネートしていただけませんか?」
と、以前作品を購入したSさんに依頼されたのは、10年ほど前になります。それは、Sさんがお遍路に出かける前でした。

Sさんは、ばりばりにビジネスで活躍したあと、ヒーリング関連の仕事につきました。
だから、絵の感想も、ヒーラーらしい感受性豊かさが表れていました。

「門間さんの絵と、日々の生活のなかで気づかないくらい自然に絵と対話しています。
なんだか交流している感じです」

そして、「芸術というと遠い感じだけど、門間さんの絵は身近な気がします」と、
購入当初、自宅であちこちに置いて楽しんでいました。実際、「ソファーの上に絵に座ってもらいました」と、送ってくれた写真を見ると、2枚の作品が居心地良さそうに座って(?)いました。

そうしているうちに、夢に向かうための額装をしようと思いついたそうです。「以前から温めていた計画なのですが、自宅でスピリチュアルサロンをやりたいんです。計画に沿って、イメージ通りの家具も買いました。今のところはリビングで使ってサロンのイメージを膨らませています。すると、この青い絵がテーブルの横に飾ってあるのが浮かんできました。大きな額装で、サロンにぴったりしているのは感じるのですが、細かいところがイメージできません。家具の自然でやさしいタッチに合わせて、大きな額装を考えてくれませんか?」

Sさんの言葉から、ビジョンクリエイターとしてサロンの空気に思いを馳せました。スピリチュアルサロンの真ん中にあるテーブル横の壁に鎮座する、大きな額装。部屋に入った人が、自然とゆったりした気持ちになるバランス感覚・・・。

「Sさんから感じるシンプルで上質なセンスにピッタリ合う額装をコーディネートさせていただきますね。数種類見積もるので、気に入ったものを選んでください。オーダー額装ですから、選んでいただいてから1ヶ月前後かかります」と伝えると、Sさんはにっこりと笑って言いました。「ありがとうございます!ちょうどいいです。実は、私、これからお遍路に行くのです」

そして、Sさんは鎌倉から四国へとお遍路に旅立ちました。

銀座イトウヤで見積もった額装からSさんが選んだのは、シンプルで上質な木目の額装でした。気づかないくらいかすかに紫がかったこげ茶色の木目です。

さて、この先が画家の出番です。絵の大きさは33センチくらい。額装の長辺は1メートルほどありました。この間をマットという色のついた厚紙でどのように配置するのかは私に任されていました。色々とサンプルを組み合わせた末、決めた内容を、お遍路に行っているSさんにメールしました。そのやりとりは、神奈川と四国との世界の行き来のような文通になりました。

「Sさん、こんにちは。元気に充実した時を過ごされていると思います。

昨日、額装をイトウヤに頼んできました。
ホワイトとほとんどホワイトに近いさりげないグレーの二重マットで発注してきました」

「ご連絡ありがとうございます。マットも決まって楽しみです。明日は桂浜辺りを歩く予定です。毎日ただただ歩くだけの生活は、シンプルで気持ちがよいです。物事はただおこるだけでそこに意味を付けているのは自分なんだと改めて気付かせてくれます。では、戻りましたらご連絡します」

「シンプルできもちよい時間を過ごしてること、伝わってきます。
旅の後半、ゆっくり堪能してください」

このやりとりの後、私の頭の中で、もう一つのマットの組み合わせが浮かんできました。どうにもこちらの方が良い気がしてなりません。最初のマットの組み合わせは額装のセオリー通りで間違いないのですが、イレギュラーな新しいアイデアが頭を離れなくなりました。こういうときは、やってみるしかありません。Sさんに早速メールを送りました。

「Sさん、絵描きの性分で、自宅で額装の写真を眺めているうちに、もう一パターン、マットを思いつきました。ので、追加料金はいただかず、使わないマットをわたし引き取り対処として、金曜にイトウヤさんにもう一パターン、マット発注してきます。両方見ていただいて、よりお部屋に合うマットを納品に使いたいと思います。それでは、よい旅を!」

「いや~、恐縮ですが、楽しみです。お願いします。鎌倉に戻る予定がはっきりしたので、お伝えしますね」

このやりとりで、もう一つのマットの組み合わせも現実化することになりました。「こんな幅をとるようなマットの組み合わせはしませんよ?!」と、怪訝そうな対応をされましたが、私の頭の中ではしっかりとイメージが出来上がっています。店員さんは、プロの額屋ですが、色彩構成のプロは画家です。どう言われようと自信を持って発注しました。

「お遍路日程、了解しました。今日、もう一つのパターンのマット、発注してきました。想像して、それが許す状況ならばついGOしてしまう、絵描きのサガです(苦笑)予定よりも額装コーディネートの日数がかかってしまいますが、ちょっとお付き合いください。また出来上がったら写真を送りますね。では良い旅を!」

しかし‥‥Sさんから返信が来ません。でも、何しろお遍路の途中です。毎日歩いてはお参りする姿をありありと想像してみて、きっとメール返信する余裕がないのだろうと感じました。

メールの返信がないままに、日が過ぎて、いよいよ額装コーディネートが完成しました。

「Sさん、額装が完成しました。やはり、後で思いついた方がより広がりを感じたのでこちらに入れました。もう1つのほうも送るので、比較してみてくださいね。引き続き、よい旅を」

すると、Sさんから「ヘロヘロになってました」と返事が届きました。

「おかげ様で、無事先日の朝に結願し、その後一番札所と高野山にお礼参りに行き、そのまま四国を離れて知人宅におりました。
旅の終盤はヘロヘロで、知人宅に着いてからは倒れ伏しており、ご連絡が遅くなり申し訳ありませんでした。

額装、確かに後に考えていただいた方がより広がって行く感じで良いですね。色々考えていただいて感謝です。
今から鎌倉に戻ります。私の都合にあわせて額装の準備をしていただいてありがとうございました」

「イトウヤに連絡したところ、Sさんの帰りに合わせてご自宅に送ってくださることになりました。日程が決まりましたら私にお知らせください。手配をします」

「まるで、お遍路のご褒美みたいで嬉しいです♪♪♪」Sさんの返信に、「ホント、テレパシーのようなタイミングですね(笑)素敵です☆☆☆」と返しました。

その後、帰宅してしばらくリビングで額装した絵を楽しんだ後、Sさんはいよいよ、以前から心に温めていた計画、自宅のスピリチュアルサロンを始めました。そのため、セッションルームに絵が引っ越しをすると、はじめからあったかのようにピッタリと馴染みました。

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