最近、「絵を見ると直感とか感性が磨かれるから、ほしい」という声をよく聞きます。
絵が好きか嫌いか、ではなく
「ビジネスの現場で直感や創造性が大事と言われるのだよね」
「子育てで子どもへの共感能力が必要」
決まった手順やノウハウでは解決できない部分を、直感や感性などで満たす。だから、絵がほしいなどのニーズです。このテーマの本で、2017年に出版された『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』は今でもロングセラーになっています。
実際、経営者のオーダーで「もやっとイメージにあるものが絵になって毎日眺めることができたら、ビジョンの具現化の原動力になるに違いない」と言われます。
そこで、絵の登場!絵がほしい!となるのですが‥‥、実際に探すと混乱する人も多いようです。
何しろ、絵を買える場所が飛躍的に広がりました。以前からある画廊や百貨店だけでなく、
ネットでも手軽に絵が買える時代。H Pが山ほどあります。探すだけで疲れる人もいるようです。
さらに、このような動機で絵がほしい人は、直感の磨き方を知りたいのですが、適当な本がなくて苦労するようです。多くの美術鑑賞の本は、例えば「モナリザの作者はルネッサンス時代に絵を描きました」といった知識教養を満たすように書かれています。『13歳からのアート思考』という本は、思考法に焦点をあてて書かれています。
さまざまな要素を整理していったら、ほしい絵や自分なりの直感や創造力の磨き方が見えてくるのですが、膨大な時間や労力がかかります。
経営者などから、「ビジョンの具現化のためのオーダー絵画がほしい。直感の働かせ方を画家から個人セッションで学びたい」言われる背景に、時代の要請を感じます。
ある勉強会で会ったOさんと色々話しているうちにオーダー絵画を聞かれ、「もやもやと心の奥にあるものを絵にすることで、はっきり実感できるようになるんですよ」と伝えたら「イメージにあるものが絵になって毎日眺められたらいいですね」と笑顔になりました。
この時、「ビジョンの具現化の原動力になるに違いない。いつか、自分もそんな絵を描いてほしい」と思ったそうです。
その後、「ビジョン、ミッションが固まり、会社のリ・ブランディングに取り組んでいるタイミングなので、依頼したいです。また、会社の社長として、深い部分にある自分が乗り越えるべき課題やテーマ、囚われているものなどが見えたりすると嬉しいです」と連絡がありました。
Oさんは、セッションを8回行うオーダー絵画を選びましたが、最初のセッションでは一体どういうイメージが湧くか想像がつかなかったそうです。しかし、2時間のセッションの中で、個人的な体験から【虹】が浮かびました。虹は多様性を意味します。一人一人が主人公として自分を発揮している世界を、事業を通じて実現したい‥‥という思いと重なりました。
「虹が最初の構想画として相応しいのでは?」
と、Oさんと私の直感が合わさって、最初の構想となりました。
心の奥にあるイメージを、直感で浮かび上がらせてオーダー絵画にする第一歩です。
この時、Oさんのイメージでは、虹の手前に柔らかで優しい藍色が広がっていました。それは、セッションで話題にのぼった会社のコーポレートカラーと同じです。
そこで、藍という色を、個人と会社の両面から結びつけました。これは、論理的な思考です。
「個人的なイメージとコーポレートカラーが重なる‥‥、絵だからできる重層的な世界だ」Oさんは感じたそうです。
絵は、直感から始まるのを大切にします。オーダー絵画のためのセッションも一回2時間という以外、決まり事はありません。一人ひとりみんなセッションの内容は違います。
でも、直感を働かせて浮かんだイメージを、絵に生かしていくのには一定の道筋があります。
それは、直感と論理の両方が使われるということです。【直感→論理】という順番です。これは、今に始まったことではありません。また、実は、美術の専売特許でもありません。
明治時代の物理学者、寺田寅彦が言いました。
「むかしから、一流の科学者は直感を使っている。
彼らは最初に直感を使っているのだ。
最初直感的に結果を見通した後に、
一つひとつを道筋に沿って組みたてたものが論理である」
科学の世界でも【直感→論理】の道筋は使われています。
私自身、学会発表のために、ドクターとディスカッションして、【直感→論理】は、科学の世界にもあるのを肌で感じます。
決まった手順やノウハウでは解決できない部分を、直感や感性などで満たしたい、という今の時代のニーズは、必然なのです。本来、感性と論理は切っても切れない関係にあるのですから。そして、直感と論理をつなぐ思考は、直感や感性を磨くのに役立ちつと同時に、さまざまな問題解決にも役に立つのですから。
さて、Oさんのオーダー絵画では、この後、【直感→論理】の繰り返しを経て、龍と鳳凰がいるオーダー絵画に発展していくのですが、それはまた別の物語です。